大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ラ)887号 決定

抗告人

高木正雄

右申立代理人

川崎友夫

外四名

相手方

小林英子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告の申立」と題する書面(写)記載のとおりである。

二夫婦の一方に婚姻費用の分担を命じた審判が確定したのち、右分担を命ぜられた者が、他方を被告として、当該費用の分担義務の不存在の確認を求める民事訴訟を提起しても、この訴訟は、審判手続と全く別異の裁判手続であつて、右審判に対する不服申立ではないから、この審判に基づく強制執行を民訴法五一二条又は五一二条の二の類推適用又は準用によつて一時停止しうると解する余地はない。所論は、独自の見解であつて、採用することはできない。右と同旨の原決定は相当である。

よつて、主文のとおり決定する。

(園田治 三好達 柴田保幸)

〔即時抗告の申立〕

〔抗告の趣旨〕

原決定を取消し本件を浦和地方裁判所に差戻す。との裁判を求める。

〔抗告の理由〕

一、抗告人は、浦和地方裁判所に対し、相手方に対する同裁判所昭和五五年(ワ)第六〇九号婚姻費用分担義務不存在確認請求の訴提起に伴い、東京家庭裁判所昭和四八年(家)第三四九六号婚姻費用分担事件の昭和五三年三月二三日付家事審判に基づく強制執行につき、民事訴訟法第五一二条若しくは第五一二条の二第二項の準用によるその執行の停止を求めた(浦和地方裁判所昭和五五年(モ)一〇六二号)が、これに対し、浦和地方裁判所は右法条の準用を否定し、申請を却下した。

二、浦和地方裁判所の右原決定は右婚姻費用分担義務不存在確認の訴が右家事審判に対する不服申立の手続とは性質を異にするとして民事訴訟法の強制執行停止に関する前記規定が家事審判に基づく強制執行に準用し得ないものとするのであるが、その理由は必ずしも明確ではない。しかしながら、その意味するところがどうであれ、抗告人は左の理由により前記法条の準用が妥当であると考えるのであり、原決定には承服し得ない。

三、すなわち、ここにおいて改めて述べるまでもなく、婚姻費用分担の家事審判はその前提たる婚姻費用分担義務の存否を終局的に確定する趣旨のものではなく、右分担義務そのものについては別に通常訴訟を提起しうることが判例上確立されている。このことは我々の経験上裁判構造として最も優れたものと言いうる対審・公開の裁判が、婚姻費用分担義務の存否については、通常訴訟手続による訴の提起によつて初めて行われることを意味するのであり、又右訴の提起が右家事審判の前提たる婚姻費用分担義務の存在を争うことにより、その家事審判の判断そのものに対する異議の申立となるのである。そして婚姻費用分担の審判による事実認定及び法的判断の安定性は極めて低いものと言わざるを得ない。

四、従つて、仮執行宣言付支払命令及び仮執行宣言付手形訴訟判決につき、両者がいずれもこれに対する異議の申立により、従前の特殊な手続から通常訴訟手続に移行するものであり、又特に前者においてであるが、仮定的であり、不安定という性格が強いものであることから、両者に対する異議申立に伴う強制執行の停止を認めた民事訴訟法第五一二条及び第五一二条の二第二項は、その性質において正に本件に親しむものであり準用されるべきと考える。

五、六〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例